NHKふたり きずな

先日、見たNHKの特集は、本当に感動しました。
2人の料理人の物語で、1人は、六本木龍吟のシェフ山本征二さん、もう1人は、銀座小十の奥田透さん。
山本さんは、世界50のレストランに初めて日本料理人として選ばれた若い頃から天才と言われた日本料理の革命児。
奥田さんは、ミシュランで三ツ星を獲るまで無名に近かった。
この2人は見た目が対照的で、山本さんはラガーマンのようにガッシリとしていて大きい。色も黒くて、私的にオタキングの岡田トシオさんの太っていた頃を少し精悍にしてワイルドにした感じだと思う(何故、喩えで難易度が上がるんだろう)。
奥田さんは小柄で、色白、若い頃から好感を持たれる柔和な感じの外見だ。
しかし、この2人は、内面に物凄く似たものを持っている。
お互いの店に月に一度は行くそうだが、奥田さんは、王様だろうが、どんなに偉い人が来たって気にしないが、山本さんだけは嫌だという。
一番嫌な客だと。
そして、狭い奥田さんの店に大柄な山本さんがドカッと座り、「さあ、何を食べさせてくれるのかな」という。
奥田さんは「ハモのお椀です」と言って出す。
すると山本さんは質問攻めを始める。(うろ覚え)「どうして、ハモなわけ。春だからハモなわけ。なんで、お椀なわけ。日本料理で昔からハモは椀だから、椀なわけ。春でハモでハモで椀、そんな単純なことでいいわけ。そこをどれだけ語れるかが料理人として大事だよね〜」
ちょっとしたイジメである。しかし、奥田さんは、とたんに目をキラキラとして語り出す。内容は覚えていないが、つまり彼らは2人とも薀蓄好きの議論好きなのだ。
オタクとも言う。
深夜の営業が終わった後、朝の6時まで語り明かしたりするそうだ。ちっとも嫌がっていない。
こういう議論を彼らは「青柳」という店で兄弟弟子だった十七年前からやってきた。
2人は共に40歳だったと思うが、山本さんの方が正確には一つ下。でも一年先輩の兄弟子。
しかし、順調に料理人としてのキャリアを積む山本さんに対して、奥田さんは運転手や下足番などをしていて3年も下積みをしていた。
だが、その間も2人は、寮の部屋で、このような議論を繰り返してきたのだ。
ここからは、この番組の前、去年末に出ている奥田さんの本情報が入る。
この2人は、行動も似ていて、両者とも同じ本を見て青柳を修業先に選び、電話で頼み込んだのだが、山本さんは三か月、奥田さんは半年電話をかけ続けたそうだ。
比較的あっさり山本さんは料理人としてスタートできたが、奥田さんは面接で修行した成果で自分の店を持ちたいというのを言いすぎたように思う。タイミングもあったと思うが、とりあえず雑用係としてスタートした。
後は、この人、サービス業として才能がありすぎたのだと思う。しばらくして、デパートの支店で、お運びをやってくれと言われるのだが、三か月で売り上げを三倍ぐらいに伸ばし、二十四の時には、総支配人になってしまう。
親方としても技を盗んで辞める気満々だと困るから様子をみていたのだろうけど、あまりに料理以外の部分で貢献してくれるのでウッカリ3年も料理をさせなかっただけなのだと思う。もしくは、この人、支配人やっててくれるとメチャ助かるみたいな。
3年たって失意のうちに来年辞めますと言った奥田さんは、料理長として一年間教育係付で英才教育を受けるのだ。
この辺は、本の方に書いてあるのだが、常にこの人は、人に愛され、辞めた店の料理長や支配人に格別の配慮を受け、奥田さんが最初に静岡で開いた店は、青柳より前に修行していた老舗旅館の料理長が継いでいる(そして息子さん・・・奥田さん・・・のいた時の方がおいしかったとか言われている)。
で、番組に戻るのだけど、この下積みの方が長かった青柳時代、二人はすぐに仲良くなるのだが、奥田さんは先輩料理人の山本さんの寮の部屋に入ったとたん狭い部屋にズラッと並んだ本の中に、自分の持っている本と同じものがたくさんあったのを見て「こいつ、やるな」と思ったそうだ。
ちなみにその時、奥田さんは運転手。その奥田さんは、「こいつ、俺と同じものを見ているのかもしれない」と思ったのだから、意外と奥田さんの方が気が強いのではないかと思った。
そこから、毎晩、二人はここで料理の話をし続ける。
この2人にとっては、周りの評価など関係ないのだろうな。
小十は3年連続ミシュラン星三つだが、山本さんの龍吟は、星二つ(三つ星の前評判は龍吟だった)。
それでも、奥田さんは、一度も超えたと思ったことはないと言っていた。子どもと遊んでいる時も常に彼が頭を離れないそうだ(店の開店日、山本さんの誕生日にしたぐらい)。
山本さんは、座る時、指を組んで机に置く癖があって、それが繊細な感じで好きなのだが(私が)、その姿勢で絞り出すように「どんな名門料理店が私より上の評価を受けても気にしなかった。私の上に立ったのが彼でなければ、こんなに辛く苦しくなかった(かなりのうろ覚え)・・・それは、認めます。」と言う。
しかし、世間で上と評価された奥田さんは、「同じものを作った時に彼のものはズバ抜けている。神様は、その才能をくれなかった。僕にはね。」と言ってボロボロ泣いた。
山本さんは、革命に次ぐ革命を日本料理にもたらし、奥田さんは、王道を極めるというスタイルを貫くが、お互いの店に時間外にもフラリと現れ(テレビでは、奥田さんが六本木に深夜に訪れていた)、隠すことなく情報を共有し、ヒントを得て自分の料理に生かす。
認めつつ、自分の方法にこだわるのだが、同じ王道や同じ斬新さを求めたら、お互い苦しいだろうとは思う。
意図的に道を違えているのかは分からないが。
とはいえ、2人とも伝統や基礎を物凄く勉強していて、料理に対する姿勢や根本は似ているのだろう。
まあ、素人からすると普通うなぎは焼くのに蒸すなんて凄い革命だ斬新だといっても、よく分からないけども。
切って出されたウナギの仕上がりの見た目は似ている。
一応、勝負みたいな形だったので、ハモ、アユ、大ウナギのそれぞれの料理が番組では紹介されたのだ。
奥田さんの出している「世界でいちばん小さな三ツ星レストラン」は、本当にいい本だ。
山本さんのことも随所に出てくるが、仕事ってなんだろう、努力ってなんだろうと生きる姿勢を問われた気がした。
書評で、「買うほどではないと思っていたが、地元の著名人が感動したと書いていたので買ったら一気に読んだ、感動した。」とあったので、私も買いました。
一気に読みました。感動しました。家族全員で読みました。
本の最後のプロフィールの下に小さく「この本の著者印税は、心臓病で苦しむ子供たちのためのあけみちゃん基金に寄贈されます。」とあって、最後まで感動させられた。一部じゃないんですよ。全部ですよ。
買って良かった。
あとは、NHKの番組を録画しておかなかったことが悔やまれます。